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執筆者の写真Midori Nissato

[Suits woman]赤ちゃんが苦手だった私のその後

※この記事は、小学館 Suits womanに掲載していた記事です。サイト閉鎖に伴い、許可をいただき転載しています。


こちらの記事でも書いたのですが、実はずっと赤ちゃんが苦手でした。

私が触ると赤ちゃんが謎の菌で死んでしまうかも……という、未知の存在との接触への恐怖と、自分の生まれ育った環境へのトラウマから母になることへの不安・恐怖を感じていたことが原因だとわかってはいたのですが、その苦手意識を克服できないまま妊娠、出産をしました。

「こんな私が赤ちゃんを産んで良いのだろうか……」

「生まれた赤ちゃんをちゃんとかわいいと思えるのだろうか……」

不安の中で迎えた出産とその後の葛藤、心境の変化を今回は描いてみたいと思います。


生まれた直後の赤ちゃんを直視出来なかった

産後お母さんのお腹の上に赤ちゃんを乗せることを“カンガルーケア”と言うそう。


無痛分娩で出産に臨んだはずが、結局痛くなり、何で痛いのか主治医に説明されるも理解できず、混乱したまま出産しました。

もうろうとした意識の中で、足元の方から「フギャー」という産声を聞いた瞬間、私の口から出てきた第一声は「本当に入っていたんだ……!出てきたね……」でした。

もちろん妊娠中の検診はきちんと行っていたし、エコー写真だってアルバムに毎回感想を記入してコレクションしていました。臨月には胎動だってボコボコ感じていました。

それなのに、自分のお腹から生命が出てくるなんて、どこか信じられない思いがあったのです。

そして産後いきなり赤ちゃんとのご対面、“カンガルーケア”が行なわれました。ぐったりと分娩台に横たわった私の体の上に助産師さんが「ハイ、ママですよ〜」と、おもむろに赤ちゃんを乗せました。

生暖かくて、うっすら見える姿はまだところどころに血が付いていて、まるで臓器が出てきたかのようで、怖くなって、直視できませんでした。

達成感こそあったのですが、疲労感が勝ってしまい感動する余裕はありませんでした。

「産声を聞いた瞬間、守ってあげなきゃって思った」とか「顔を見た瞬間、それまでの不安が消えて、思わず『かわいい』って言葉が出ちゃった」とか「母になったって実感して、涙が出たの」というような、感動の出産体験談でイメトレしていたので、「臓器かと思った」という私の本心に、自分自身がドン引きし、「こんな私が母になれるのだろうか……」という不安な気持ちに拍車がかかったのでした。


「かわいい」のだろうか?

どっちに似てるって聞かれても……。


出産報告をした人には「赤ちゃんかわいいでしょ?どっちに似てる?」と口々に聞かれましたが、正直なところ、全くわかりませんでした。何かに似ていると言えば、土偶に似ている……。でもそんなこと言えない。

今思うと、産後しばらくはみんな顔がむくんでいるので、そんなのものなのですが、「どっちにも似ていないし、土偶に似ているし、かわいいのかもよくわからない」という状態でした。

分娩台の上ではじっと見られなかった我が子の姿を部屋に移動してからはまじまじと観察しました。かわいいのかどうかはまだよくわからないけれど、指は5本ずつ生えているし、目も鼻の穴も耳も2つずつついているし、息もしているし……、ひとまず無事に生まれたようで良かったという思いでした。


そして突然「ママ」になる

“新里さん”が“ママ”に変貌。


出産したので、当たり前のことですが、出産と同時に突然周囲からは「ママ」と呼ばれるようになりました。育児を開始する以外に選択肢の無い状況が始まりました。

産後すぐに助産師さんが部屋に入ってきて、おもむろに乳首をつねると、じわっと母乳がしみ出してきました。「出ていますね、では授乳してください」

え!?いつの間に私の体、母乳が出るようになったの……!?

ていうか、乳首めちゃくちゃ痛いし、あんまり出てないけどこれで良いの!?

心の準備や練習をする間もなく、育児が開始しました。

入院中はゆっくり寝ている暇なんてほとんどありませんでした。『目が覚めたら(転生して異世界で)母になっていた件!?』というラノベがあったら、こんな感じかも……。

めまぐるしく変化する生活に対して、心が追いつかず、置いてきぼりになっていくような感覚でした。

その後、4日間の入院を経て、帰宅しました。

「産後1か月間は寝たきりだよ」と聞いてはいたのですが、その1か月間は想像とは全く違うものでした。産前は「1か月も寝たきりで何も出来ないのはもったいないな。内職でも探そうかな……?」などと、余裕しゃくしゃくで構えていたのですが、出産から来る体のダメージと24時間ずっと2時間おきに授乳とオムツ換えをする日々の大変さは想像を越えていました。

「世の中のお母さんたちはみんな、こんなことを経験していたの!?」と思わず、子供がいる友人にLINEしてしまったほどです。

はじめの頃は赤ちゃんのお世話に追われて余裕の無い日々でしたが、産後1か月を過ぎると、自分でも驚くほどに心境の変化がありました。

「子供が苦手だった人も、自分に子供が生まれると、かわいくてしょうがなくなるもの」という話は本当なのでしょうか……?




会社員時代の先輩が自他ともに認める子供嫌いでした。それが数年前、子供が生まれたと同時に、驚くほどの子煩悩に豹変しました。SNSにも子供の写真があふれ返っています。

当時まだ結婚もしていなかった私は、その変貌ぶりに大変衝撃を受けました。

周りの子供がいる人がよく「子供嫌いでも、自分の子供が出来るとかわいくてしょうがなくなるもんだよ」と言っていたけれど、その先輩がそうなってしまうとは……。

そんな姿を見ていても、「まさか自分はそんな簡単にコロッと変わりはしないだろう」と思っていました。こんなに赤ちゃんが苦手で、どうにもこうにもこじらせていて、不安がいっぱいの私が赤ちゃんをちゃんと愛せるのだろうか……と。

出産したタイミングでいきなり母性に目覚めると言う話も目にしていたので、出産した時に「内臓みたい」と感じてしまった私は、「やっぱり私は例外だったんだ……」とがっかりしました。

それが、数か月間赤ちゃんと暮らすうちに、ハッと目覚めたかのように、突如として赤ちゃんが大好きになってしまいました。本当に驚きです。

母性本能だとかホルモンの関係だとか、正確な理由はわかりませんが、体の回復もあって、落ち着いて赤ちゃんに接することができるようになって、“一緒に暮らしている、一生懸命生きているいじらしい存在”が純粋に好きになったという気持ちです。

現在、生後1年1か月が過ぎた今でも、私のお腹からこんなにかわいい存在が出てきたことは、不思議すぎて、いまだに信じられません。

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